「月光シアター」の思い出

「月光シアター」
劇団仮面工房が管理する同劇団の稽古場兼劇場。
1991年11月設立〜1997年11月閉館

左の写真は1994年7月
第12回公演納涼夏芝居「世にも怪奇な物語2本立」
本番当日の月光シアター全景。

当時、福岡市内でも自前の小屋を持つ劇団がいくつかあって、それを羨ましく思った座長の下松勝人が、自分たちの稽古場兼、劇場が欲しいと言い出した。それまで劇団仮面工房は九州大学の地下にある一室を借りて活動をしていた。稽古や作業には充分だったが、公演をする場合はホールを借りることになる。また大学の方もいつまで使えるか分からなかった。劇団員は劇場に使えそうな建物を探すことに。
間もなく、東区に木造の貸し倉庫が見つかる。それまでは米屋の倉庫であったり、工場であったり、駐車場であったりと色々な使われ方をしてきた小屋だそうだ。この小屋の裏手に住んでいた大家さんはとても親切なお婆さんで、この小屋を劇団という得体の知れない集団に安値で貸してくださることになった。本当に「仮面工房」が何者なのか分からずに貸してくれたんだと思われる。
冬の寒い日だった。劇団員が揃って小屋を掃除するために乗り込む。トタンで覆われた壁はスキマだらけで冷たい風が吹き込んでいた。
照明は蛍光灯が3本あるだけで、昼間でも薄暗い。木造の梁の上には何十年も前からの埃が積もっていた。埃を落とし、梁と柱を雑巾で拭く。コンクリートの床に水を流す。所々に水溜りができる。、それをデッキブラシで流す。
その日掃除は深夜までかけても終わらなかった。劇団員の鼻の穴の中は真っ黒になった。
劇場名については劇団員それぞれが案を出し合い、その中から花畑まゆこが考えた「げっこうシアター」が候補にあがる。
久松ホキトの提案で「月光シアター」と漢字表記され、これに決定する。
劇場表の壁には田崎ちょこがデザインした「月とワニと女性」の絵を、田崎と吉本直樹の手により大きく描かれた。
中央に掲げた「月光シアター」の看板は佐野元一がデザイン及び製作を担当する。
入り口頭上には花畑のデザインによる「仮面工房のマーク」と「劇団仮面工房」と描かれた看板を掲げる。
初代「月光シアター」館長には吉本が選ばれる。

その後、半年かけての劇場作りが始まる。
トタン一枚だった壁の内側に、工事現場から貰って来たコンパネを打ちつけ、そのトタンとコンパネの間に、近くのスーパーから貰って来た段ボールを詰めて防音と保温の効果を高める。この作業は劇団員全員で行ったが、特に吉本、佐野、松井義則が中心になって劇場の隅々までコンパネを敷き詰めて行った。コンパネには黒いペンキを塗って外観も良くする。
電気の配線工事は大谷豪が担当。電流量を増やし、配電盤を設置。照明器材の使用を可能にする。
当時は粗大ごみ出し日があって、近くのごみ捨て場から畳を拾って来て、客席用に敷いた。
舞台は酒屋で買って来たビールケースを箱馬代わりにして、コンパネと角材で平台を作って組み立てた。




右の写真は1992年6月、柿落し公演「11人の少年」の本番終了後、客出し風景。


目立つ外観の「月光シアター」も、バス通りに面しているため、たくさんの人の目に止まったと思われる。その怪しい雰囲気を面白がって覗いて行く人も多かった。
座長 下松勝人は稽古中、わざと表の戸を開けておくように言った。
当時、危険な宗教集団も多かったので、近所の人たちに我々が中で何をしているのか見せて安心してもらう為でもあり、もちろん公演の宣伝の為でもあった。劇場内で稽古や作業をしていると、近所の人が覗きにやって来る。そんな時は「こんにちは」と挨拶し、すかさず公演のチラシを渡して営業した。しばらく世間話をした後、その場でチケットを買ってくれるお客さんもいた。
こうして次第に東区箱崎〜筥松の地域の方々に受け入れてもらえる劇場になっていった。




左の写真は1993年5月、第10回公演「サンクチュアリ」の宣伝のため、これから箱崎商店街を行進しようというチンドン隊。

自分たちの稽古場があって何よりも有難かったのは、時間制限なくその空間を使えるということだった。昼間は作業をし、夜は稽古、深夜はまた作業をし、泊まっていくこともできた。
特に仮面工房の反省会は長く、リハーサルの後、深夜に1時間から2時間はダメ出しが行われることもあった。借しホールでは考えられないことだ。
また、舞台装置を何ヶ月も前から作り付けておくこともできたし、照明を稽古の段階から吊っておくこともできた。運搬費用も掛からないし、本番前日に仕込みの時間に追われることもなかった。





1993年10月、第11回公演「少女仮面」の本番当日、昼食時の様子。

左の写真は1996年5月、第15回公演「仮面流雨月物語 天国への扉」の本番当日、開演を待つ会場内の様子。

客席はほとんどが畳を敷いた桟敷席。芝居小屋の雰囲気がある。せめてもの気遣いとして小さな座布団を作って配置した。
客席後方にイントレで組んだ照明と音響のブースがある。芝居を眺めるには絶好の場所だが、立つことができないのでオペレーターは腰が痛いのだ。

またいつか、つづくよ。

inserted by FC2 system